|
記: 今までやってきて一番感動した瞬間はどのようなものですか?やっていて良かったと思える瞬間はどういう時ですか? 内潟さん: そうねぇ・・・。1回1回「自分でやってて良かったな」って思いますけれども、敢えて言うなら外国公演の時かな。というのはね、外国人は日本人と違って感情をすごく素直に表すんですね。公演が終わった後に抱きつかれたりされてね。日本人はあんまりあからさまにそういう事をしないですから。こういう時かな、強いて言うならば。それから昔、身体の不自由な子ども達がいる学校へ、小鼓・大鼓を持って出かけていって、図書室かどこか狭いところで演奏したんです。目の不自由な子だったかな、じぃっと聞いていて、感動した子は嬉しそうにしているんですね。そして終わった後に「目が見えませんから、楽器を触らせて欲しい」と言うんです。メディアを通してではなくて、実際の音・生の音っていうのは、他では味わえない感動がありますね。自閉症の子なんかは、そこの先生が言うには、感動すると「あぁ!」って自分の気持ちを抑えきれなくなって叫びだすんですって。我々はびっくりしてしまったんですけれども先生に「違うんです、この子は感動するとこうなんです」と。だからそういうのを見ると、儀礼的に拍手されることよりも、むしろそのように感動している事を表現してもらえると本当に嬉しいですね。 記: お客さんが「感動したよ」ということがこちらに伝わってくると嬉しいのですね。 内潟さん: そうそう。いわゆる"評価を受けた""賞賛してもらった"ということですね。それから能の曲目っていうのは簡単な曲から難しい曲まで、色々な曲があるんですね。難しい曲っていうのはなかなかやらせてもらえないんです。3年に1度か2年に1度か。10年に1度しかやらせてもらえないものは、大曲・秘曲(ひきょく)とも言いますね。こういう大曲・秘曲を、国内公演で自分なりに満足にやれた時は、「かったな」と思いますね。こういう曲は講演の1週間前から謹慎します。お酒は飲まない、健康はもちろん気をつける、テレビもあまり見ない。 記: 精神統一をするんですね。 内潟さん: そういう事だね。雑念を追い払うんです。家庭を持っている人の中には、別居して生活する人もいるんですね。私はそういうことはしませんけれども(笑)。でも、自分の弟子の稽古を少なめにして、その1週間は何事もないように静かに過ごすんです。大曲の前はね。どういう事かというと、大曲を演奏する時というのはものすごく緊張するんですよ。今は大分慣れましたけれど、私の師匠がまだお元気の頃、独立したすぐ後で生まれて初めて大曲を演奏する時、これを「お披き」と言うのですけれども、やっぱり前の日は眠れなかったし、朝起きても緊張しました。急に汗をかいたり、顔は強張っているし、要するに極度の緊張状態ですね。初めてそれをやりました時はもう頭が真っ白で、逆に感動も何も無かったですね。その日は緊張だけで、ただ過ぎ去ったという感じでした。 その後、何年かして他の曲とかもやりながら余裕が出てくると、事前の緊張が大きければ大きいほど、やった後の達成感というか充実感が強くなりますね。自分の気持ちの中で手ごたえがぐぐっと来るんですね。 記: 他の楽器は何かなさるんですか? 内潟さん: 田楽笛を吹いたりします。田楽笛とは、私がやっている横笛の一種ですが、本質的に全く違います。昔、江戸時代に農民が田植えする時や収穫の時に、田んぼの中で踊りながらぴーひゃらぼんぼんとやっていたんですね。その時に使っていた笛が田楽笛というのですが、今はもうなくなってしまいましたが、それをある人が再現しているんです。非常にのどかな、田舎的なものです。私もあちこちで公演しています。例えば学校とか老人ホーム・養護学校、痴呆症の人を集めたところだったり、少年院・刑務所にも行ったことあります。そういう時に、私が行っている能の囃子(はやし)の音楽が主の間に、笛を変えて田楽笛で演奏すると、がらっとイメージが変わるんですね。それからあとは、建物のオープン記念セレモニーとかね。色々な場所でのソロ活動のときに楽しんでもらうために、田楽笛を吹いたりもします。田楽笛は能の笛とは旋律はもちろん全然違いますが、日本の昔から伝えられている民謡的な"てんてんてまり てんてんてまりの 手がそれて…"とか、子守唄のようなメロディーに合うようになっているんです。優しい感じがしますね。 今は横笛がメインですが、独立する前には能の楽器は一通り全部やりました。太鼓とか鼓とか。これらの能の楽器が今でも伝えられているのは、ひな祭りの「五人囃子」ですね。あれが私がやっている能の楽器ですね。 記: "五人囃子の笛・太鼓♪"と言いますものね。 内潟さん: そうです。他には、やれと言われれば「ケーナ」ですかね。ケーナって知りませんか?"コンドルは飛んでいく"のメロディがケーナで演奏されますね。南米の縦笛で、田中健さん(注:日本を代表するケーナ奏者)がやっているんですけれども、ちっちゃい楽器です。リコーダーと少し似ていて、リコーダーは完全に口にくわえてしまいますが、ケーナというのはちょうど尺八とか横笛とかを吹くように、くわえたりはしないんですね。 記: 小さい頃から音楽が好きだったんですか? 内潟さん: 特別好きというわけではなかったですけれども、嫌いでもなかった、というのでしょうか。 記: 日本の音楽というのはとても特殊な音楽だと思うんですけれども、これは小さい時からの訓練によって習得するものなのでしょうかね? 内潟さん: それもあるでしょうし、センスもあるんでしょうね。ただ、私の場合は大学に入ってから正式にやったわけですけれども、結局は訓練でしょう。訓練によって、伸びるか伸びないか、が決まるんでしょうね。私は大学に入りましたけれども、本当に上手い人たちはそれこそ小学校5年生くらいの時から吹かされていますからね。その頃からやった方が、手の筋肉が柔らかいんですね。ピアノなんかもそうであるようにね。20歳を超えると手が硬くなってしまうんです。そうなるとだめなの。だから理想的なのは中学・高校くらいの、手の筋肉が柔らかい時に楽器を始めると良いのでしょうね。日本の和楽器もそうですけれど、これは洋楽器も同じでしょうね。その方が習得も早いし。ですから私の場合は遅れていましたよ。「遅れた分だけ自分で努力しないと」とがむしゃらになりましたけれどね。 記: すごい頑張り屋さんなんですね。 |