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4.「私が良いと言えば売れる」~本屋を面白い所にするために~

 

記: 本屋のお仕事をされていて嬉しいのはどんな時ですか?

笈入さん: 自分が良いと思って店に置いた本が売れていく時です。そのことに尽きますね。モノを売る商売はみんなそうだと思います。自分で作っているわけではなくて他人が作ったものを売るわけですから。やはり自分で「これは良い!」と思って見つけてきた本をお客さんに選んでもらえる時は嬉しいです。中にはお会計の時にレジで「おたくは良い本がいっぱい置いてあるね」って直接言ってくださる方もいます。普通の本屋だと書店員がお客さんから「この本面白いね」と言われることはあまりないと思うんですよね。“本屋不毛の時代”にあって、お客さんに喜んでもらえたかなと思える時が一番嬉しいですね。

記: 今までで一番心に残っているエピソードなどはありますか?

笈入さん: 一番!というのはないですが、以前、ある哲学者の方が書いた地味な本に僕の個人的な読後感、メッセージを付けて置いたら、うちの店では全国でベストセラーになる本と同じくらい売れたということがありました。そんな風に工夫次第なんです。ベストセラーになるものは「誰かが良いと言っているから売れる」という原理ですが、そうじゃない本でも「私が良いと言えば売れる」ということです。いつも、というわけにはいかないですけどね。しかし個人的なメッセージの有る無しが今、売れ行きに大きく影響していると感じます。だから本屋が本を読まないと駄目なんです。本屋がそう働きかけることで本の多様性が保たれるし、本というものが面白いものになる、そして本屋というところが面白いものになるのだと思います。

記: 本屋はどこも同じ、本屋の没個性化などと言われますが、それぞれの本屋が工夫することが必要なんですね。

笈入さん: えぇ、売れているものをただ追いかけるだけだったら誰にでも出来るわけです。そんなやり方をしていても、結局資金があって仕入れ力の強い大きいお店が勝つだけです。というのは出版社にとってはどこの店で売ってもらおうが同じことですから、一箇所でまとめて売ったほうが作業的には楽だし、効率的だからです。だから小さい本屋は日本全国が欲しがるような本を大量に売ろうとしても、元々仕入れ力の面で大きい書店には敵いません。ただ『世界の中心で、愛をさけぶ』(注2)を置いただけでは駄目なんです。どうすればいいかというと、さらに奥の手、隠し玉みたいな本を見つけてきて、『世界の中心で、愛をさけぶ』と同じくらい売ればいいわけです。

記: なるほど。では逆にお仕事の中で辛いな、という事はありますか?

笈入さん: 辛いことはあんまりないかなぁ。でも仕入れがままならない、ということはありますね。欲しいと思った時に欲しい数入らない、とか。どうしても大きい書店が優先されてしまいますから。でもそれも徐々に解決できるように、小さい書店同士で横の連携を強めて、ある程度の大きさとして認めてもらって大きい本屋に対抗する、という取り組みはしています。

記: 小さい本屋には出版社に注文しても本が入荷しない、なんてこともあるんですか?

笈入さん: 在庫がある場合ならもちろん入ってきます。しかし本というのはいつでも在庫が足らない状況になっていますから。出版社が出荷したら売り上げが確定するのではなくて、何ヶ月か経って返品が返ってきて、その相殺で売り上げが確定するわけです。だから出版社は注文されたとおりには出荷できないんですよ。では、どこへの出荷を削るかとなったら、小さい本屋が削られるんです。

でも思い通りにならないのは一部の売れている商品だけであって、その他のそこそこ売れる本というのは在庫がひっ迫していない場合もあります。中には出来上がった本を3年かけて売ろうと、のんびり構えている出版社もあるんです。そういう、地味な本だけれど良い本というのをきちんと見つけて注文すれば思い通り入ります。

記: 仕入れが思うようにいかないという以外に、精神的に辛いことなどはありますか?

笈入さん: 精神的には全然辛くないですよ。まぁ、今は売れているからかもしれないですね。売れなくなったら厳しいかもしれないですけど。ただ、今のところ大丈夫・・だと思います(笑)。辛いことと言えば、書店員なら必ず腰痛で悩むのではないでしょうか。さっきも言ったように本屋は肉体労働という面がありますから。

注2: 『世界の中心で、愛をさけぶ』…片山恭一著。01年に刊行され03年にブレイク。300万部を突破する大ベストセラーになる。

 
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