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1.「1人1代」のつもりだったけど・・・

 

梅田万紗子さんは、『美玉』という、ビルの一室にかまえる事務所で、男性用のスーツ・自衛官の制服・礼服などの裁断を手がけていらっしゃいます。当日取材が行われた『美玉』の事務所内にも、これからお客さんの手に渡るのを待ち望んでいるだろう多くのスーツ・自衛官の制服・礼服が並んでいました。では、この『美玉』という注文洋服屋さんが生まれたきっかけ、そして梅田万紗子さんがこの仕事に関わるようになったきっかけは何だったのでしょう・・・

記者: 昔から衣服の仕立てなどに興味があったのですか。

梅田万紗子: 私は衣服のことには、最初まったく関心はありませんでした。うちの父の考え方で言うと、「こういう技術をともなう仕事は、その人の感性だとかそういうものがもっとも必要なのですから≪一人一代≫のものだ」と申しておりました。

記者: では、この『美玉』が生まれたもともとのきっかけとなったのは何だったのですか。

梅田万紗子: もともとうちの父がきっかけでできました。昭和年間の初めの頃、昔からうちにいた番頭さんがたくさんの職人さんを抱えて注文洋服屋をしているところに下宿させてもらっていたのです。そんなときにその番頭さんが脳溢血で倒れてしまって。"職人さんはたくさんいる、注文もたくさんくる"という状況のなか倒れてしまったので、父は「これはなんとかしてあげなければ、お世話になったのだから自分ができることがあるのではないか」と思ったらしいのです。けれど、父も服づくりにはまったく関心も知識もなかった人でした。そこで、丸善などに行って、海外から輸入した裁断方法に関する本を探して買ってきて、注文のとれている洋服の裁断をしたりして、職人さんたちに仕事として渡してあげたそうです。結局そういうことを大学に行きながらずっと続けていて、いまで言うアルバイトです。そして"職人さんたちも仕事が満杯になる、倒れてしまった番頭さんも助かる"と、事がうまく進み、さらに、"学士の注文洋服屋さん"が当時珍しく、いまで言うマスコミがそれを聞きつけ朝日新聞に載ったらしいのです。父はもともと衣服に興味があったわけではなく、医者になりたかったということだったのですが、こういう状況が続き、もうやめるにやめられなくなってしまいました。それで、「まぁ、これでもいいか」とそのまま続けた、というのがこの『美玉』のおおもとです。もともとは一族みんな機屋(はたや)ではあったので、父がこういった仕事につくということはさほど不思議ではなかったようですがね。

記者: では、梅田さんご自身がこの仕事を始めようと思ったきっかけは何だったのですか。

梅田万紗子: 昔は、洋服屋さんというのは、職人さんが鋏(はさみ)一本をもって「この親方ならついてみたい!」と思うところを転々としていました。先ほども言いましたが、当時は"学士の注文洋服屋さん"が物珍しかったからか、多くの職人さんがいろいろなところから来ては、仁義を切って「仕事を教えてほしい」と頼みこんできたそうです。うちの父はそういったことがあまり好きではなかったのですが、誰でも来る者は拒まず、皆に「どうぞどうぞ」と仕事を与えていたようです。これが、私が3,4歳の頃だったのですが、父も、まったく思ってもみないような職業に入っていったから、私たちにも「これを継ぎなさい」、「こうしてほしい」といったことは一切言いませんでした。私は、昭和30年に高校を卒業し、大学に進むつもりでいたのですが、父が29年に大病をし、「少しはうちのことも手伝ってあげなければ」と思い、大学は芸大の聴講生として3年間通う傍ら、ずっと事務的なことを手伝っていました。そうこうするうちに父の病気もよくなったのですが、いまさら「大学で意中のことをやろう」と思っていたこととはしだいに縁が切れていき、私も「注文洋服のことをこのまま手伝っていってもいいなぁ」と思うようになったのです。これが、私が今の仕事を始めたきっかけでした。

記者: はじめはまだ"裁断する""縫う"などといったことではなく、事務的なお手伝い、程度だったのですね。

梅田万紗子: そうです。洋服を裁断する・縫うなぞということはさらさらできませんでした。というのも学校の裁縫の時間のものは、みんながどこまでやっていたかを授業中に確かめて、一番早く進んでいるひとがやったところまでを、家に帰ってきてから、居候していた伯母たちに「もっと下手に縫って!」と頼みながら全部縫ってもらっていたのです。だから評価はいつも5でした。そのぐらい縫ったり裁ったりすることにはまったく興味がなかったのです。

記者: へぇ、今を思うとなんだかそういう風には思えないですけどね。

 
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