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記: 大学の工学部の教授として在籍したのはどれくらいの期間ですか。 相磯さん: 私が呼ばれたのは1971年、38歳の時です。慶應には28年いました。私が慶應に移ったときに「ここに15年いるよ」と言ったんです。15年説をとったんですね。一仕事しようとすると10年かかる。日本の社会のことだからいろいろなしがらみがあって15年くらいかかるだろうと思いました。公務員の電気試験所には14年間いたんですよ、その間に留学をしましたけど。だから慶應にも15年くらいいるよ、と宣言をしました。その後は民へ行くと言っていました。最初に、官(国の研究所)、それから学(大学教授)、その後は民へいくと計画していました。もちろん、その当事も民からもいろいろ声をかけていただきましたが、結局ふんぎりがつかなくなってしまい、ずるずる28年いることになってしまいました。その教授時代に慶應の改革に参加するようにいわれて、SFCという一つの新しい挑戦をしました。しかも環境情報学部の初代学部長までやるなんていうのは、思いもよりませんでした。東京工科大学にも新しくメディア学部を作るのでぜひやれと言われたのです。これも今のところ成功していますからよかったです。 私はもう1回、大学改革をしたいと思っています。ここ15年くらい私は大学改革屋になってしまいました。ある意味では専門を捨てた。捨てたというと語弊がありますが、あきらめざるをえないところがありましてね。私なんか年寄りだからいいんですが、若い人にはできないと思いますよ。せっかく今まで積み上げてきた研究を、大学改革のためにほっぽりだすのはなかなか決心つかないと思うんです。私の場合には年も取っているし、これ以上能力がないなって思っていたからそれに切り替えることができたのだと思います。 記: SFCが作られたのが、1990年ですよね。 相磯さん: そうです。実際にはその3年半前からディスカッションを始めています。ものすごく密度の濃いディスカッションでした。1986年の10月に塾長から、各学部から3名ずつ出て、その他の関係者をいれて22名か23名で、二つの新しい学部を作るので、どういう学部を作ったらよいか検討して欲しいと言われました。みんな張り切っているから最初は勝手なことを言うわけです。おまけに学部代表はというと、学部の利益のために、という発言をするんですよね。そうすると全くまとまらない。ある時ある先生が、「自分たちの利益を優先する考え方はよそう、もっと慶應にとってお互いに望ましい考えを検討しよう」ということを言いまして、それを決めてから急速にまとまったんです。それでも結局時間がなくて、その中から7・8人のワーキンググループができて、土曜・日曜・祭日返上でホテルに泊り込んで夜遅くまで喧々諤々ものすごい議論を繰り返しました。1987年の春に一応、学部の名前のようなものも含めた第一次案を作って塾長に示しました。3年半かけたディスカッションは非常に大変だったけれども、これが今、実っているんですね。きちんとディスカッションしないといいものは作れないと痛感しています。もうひとつは、よくディスカッションしないと「実行力」が伴わない。文部科学省の要綱をみてもわかるように学生の個性だとか独創性だとかキーワードはいっぱいあるけれども、そういったものをどういう風に実際に教育や研究の場に持ち込むかというところにまで踏み込んでいないんです。そこがSFCのすごいところで、結果はどうであれ、全部取り込んでいる。キーワードだけじゃなくて、実際にそれをどういう風に実現するかということに踏み込んだんですね。ここがSFCの評価されたところだと思います。 トップマネージメントというのがすごく重要ですね。トップマネージメントが弱いと改革はダメなんです。その点ではその当時のリーダー(当時の石川忠雄塾長)は大変マネージメントがうまい方でした。自分では自らやるということはあまりしないのですが、権限の委譲とか責任の取らせ方がすごくうまいんです。最初から、がちっと権力を握り、仕事を人に押し付ける訳ではなく、他人のアイデアをちゃんと評価してくれて、「よし分かった。あんたに任せるから責任もってやれ」って言ってくれるんです。インセンティブはちゃんと与えてくれるんですね。 記: SFCは現在、相磯先生が考えていた通りになっているんですか。 相磯さん: そうですね。10年以上経つわけですから、一つの時代は終わったなって思っています。もちろん、我々が考えていた通りに動いていないところもありますが、全般的には予定通りいったかなと私は思っています。今は第二世代のSFCに入ったという意味で、さらに改革を進めてくれていますから、私はそれでいいんじゃないかと思います。改革というのは、一過性のものじゃなくて永久に続かなければ改革の成果は実らないと思います。立ち止まることなく新しいことに挑戦をするという形でSFCは努力をしていますしね。私はそういう点ではいいと思います。 記: 何か、SFCで実現したいと思い、実際にやったことはありますか? 相磯さん: みんなのディスカッションを通して、さっきお話したように日本の教育はなっていないんじゃないかという点を改善する策を盛り込みたいと考えていました。具体的にどういうところに問題点があるんだろうかということを考えました。 私の体験からいっても、大学は知識を体得するだけのものっていう意識がある。特に文系の学生はそういうところがありますね。これからの時代は、知識のみならず、問題を解決する技能、スキルっていうのが非常に重要なんじゃないかと考えていました。この考え方を実現したいと思ったんです。単にスキルと言っても、コンピュータを使うというだけではないんですね。リテラシー(基礎知識と基本技能)というものがあるんです。そのリテラシーにもいくつかあって、一つ目は外国語も問題解決のためのリテラシーであるということ。二つ目はコンピュータリテラシー。三つ目は数理解析のリテラシー。このことをSFCではデータサイエンスと言っています。身の周りにあふれる情報をどういうふうに統計処理をするか、という意味合いを持っています。それから、いろんな意味で社会を分析する能力も必要です。経済学だとか社会学というのがこれに入っています。もうひとつは、やはり「健康」で「健全な精神」を持つというもので、普通は保健体育と言うのですが最近は心身ウェルネスと言いますね。そういういくつかのリテラシーを学習するんです。 通常の一般教養は、そういう考え方では実施されていません。ただ経済学があり、社会学があり、文学があるというだけで、「問題の解決」ということを考えていないんです。
記: 新しい教育の仕方というのはまとめて言うとどういうことですか。 相磯さん: 問題発見解決型の教育。つまり学生は与えられた問題を解くだけじゃなくて、これからは自分で問題を設定して自分で解決をすることです。その問題というのは、学問の世界でも良いし、キャンパスの生活を通しての問題でも良いし何でも良い。だから学生にできるだけ自分で問題提起をしてくれということを言っていました。SFCでは、学生が集まってどんどん新しいことをします。これが問題発見、解決のひとつのアプローチなんですね。学問の世界も同じで自分で研鑚の種を見つけ出すということをして欲しいと思います。そうすると、結果がやはり良いんですよ。活気があるんですね。自分で言い出すから責任を持つし、協調体制はできるし、いろんな意味で良いことが多いですね。 記: 問題発見解決型の教育とは具体的にはどういうことなのですか? 相磯さん: テーマを押し付けることはしないで、自分が何をやりたいか、何故やりたいか、それをやるためには何が必要かということをプレゼンテーションさせて、その後に徹底的に質問して、いけるなと思ったらやらせる。私は原則として、自分たちのやりたいことをやれ、そのかわりやるための環境作りは私が責任をもつということでやっています。例えば、外国の国際会議にも積極的に出席させたんですね。その驚きを与えることで学生が変わるんです。自分がやっていることの位置付けがわかるようになり、帰ってくると自分たちもやらなければと目の色が変わるんです。 |